【数学の考え方(全六回)】第一回 たし算・かけ算から学ぶ計算のしくみ ~アタリマエを疑う~
ブログを始めてから初めて,私のブログが対象としている「読者の基準」が明確でないことに気づかされました.
その問題を解決するための新シリーズです.
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数学の考え方とは?
「数学の考え方」では,全六回に及び
を丁寧に解説していきます.
数学の「基礎中の基礎」から取り扱い,少しずつステップアップしていくので,
などなど,皆さん大歓迎です!
ぜひ,私と一緒に楽しみながら数学しましょう!
全六回の記事一覧です.
- 第一回 たし算・かけ算から学ぶ計算のしくみ(←now!!)
- 第二回 ≦ と < の小さな違い・大きな違い
- 第三回 小中高の算数・数学からわかる!一般化のはなし
- 第四回 幾何学はたった「5つの約束」でできている!?
- 第五回 もう忘れない!必要条件・十分条件の見分け方
- 第六回 必見!!こんなに面白い数学史
それでは,Let's math!
四則演算(+,-,×,÷)の復習
皆さんは「四則演算」をご存じでしょうか?
四則演算とは
- たし算(加算,+,addition)
- ひき算(減算,-,subtraction)
- かけ算(乗算,×,multiplication)
- わり算(除算,÷,division)
計4つの演算のことをいいます.
(かけ算の記号は「・」と表記されたり,省略されたりします.)
(この記事では,演算=計算と解釈しても大丈夫です.)
皆さんも日常生活で,買い物や割り勘などをするときによく計算しますよね.
Q.
一部屋1000円のカラオケボックスを4人で借りるとき,
一人何円ずつお金を払えばよいか?
A.
1000(円)÷4(人)=250(円/1人)
しかし,異なる演算子(+,-などの記号)が1つの式に含まれている場合では,計算する順序によって答えが変わることがあります.
Q.
12÷3-2
A1. (12÷3)-2=4-2=2
A2. 12÷(3-2)=12÷1=12
このような問題を解決する,つまり
ために生まれたのが,小学校で習う「計算のルール」です.
計算のルール
- かっこの中から計算する
- かけ算・わり算はたし算・ひき算より先に計算する
- かけ算・わり算のみの式は前から計算する
- たし算・ひき算のみの式も前から計算する
計算のルールを一通り確認し終えたところで,練習問題に挑戦しましょう.
Q.
12÷4+(3×2-4)×5=?
A.
12÷4+(3×2-4)×5
=3+(6-4)×5
=3+2×5
=13
次の問題はどうでしょうか.
Q.
6÷2(1+2)=?
A.
考え方による
→ 1 or 9
実はこの問題,ネット上で議論を巻き起こした問題なんです.
この問題を引き起こしている原因は,簡単に言うと「解釈の違い」です.
詳細はリンク先のサイトを参照してください.
私は,後者のような「個人の解釈」によって答えが一意に定まらないものについて,「数学的に考える必要がない」と思っています.
四則演算の世界
私と一緒に自然数から始まる数の世界を冒険していきましょう!
数の世界の始まりと自然数
数の起源は自然数で「ものを数えるために生まれた」と考えられています.
人間が自然に考えついた数なので「自然数」と呼ばれているらしいです.
日本では正の整数(1,2,3,4,etc.)を自然数と定義していますが,
フランスなどでは非負整数(0,1,2,3,etc.)を自然数と定義しています.
位取り記数法について
位取り記数法とは,数の表現方法の一種で,あらかじめ定められた何種類かの記号や数字を並べることによって数を表す方法です.
例えば,日本人を含む多くの人類が現在使用している10進法では,10種類のアラビア数字(0,1,2,3,4,5,6,7,8,9)を横に並べることによって,数を表しています.
(数字の代わりに数種類のローマ字(a,b,c,d,etc.)を利用する場合もあります.)
「10進法なんて当たり前」と思う人もいるかもしれませんが,実はそれほど当たり前ではありません.
たまたま人間の指の本数が合計10本だったので,10進法を利用しているだけなのです.
実際に,メソポタミア文明では60進法,マヤ文明では20進法が利用されていました.
60や20の由来が気になる方はぜひご自身で調べてみてください.
特に,60進法は現在でも時間(時・分・秒)をあらわすときに使われていますよね.
Q.
2本指の宇宙人は何進法を使っているでしょうか?
自然数とたし算・かけ算の世界
私たちの知っている数は自然数のみとします.
自然数の世界のみで出来る計算はあるでしょうか?
試しに,自然数の世界でたし算をしてみましょう.
(ex)
1+1=2
3+4=7 etc.
Q.
A.
常に自然数
このように,たし算は自然数の世界のみで計算が成り立ちます.
かけ算でも試してみましょう.
(ex)
2×3=6
3×5=15 etc.
Q.
A.
常に自然数
こちらもたし算と同様に,自然数の世界のみで計算が成り立っています.
このような場合,自然数の集合はたし算とかけ算について閉じていると言います.
閉じているとき,自然数の集合上でたし算とかけ算は定義できるのです.
「その世界だけで完結している(成り立っている)」というイメージが,閉じているという言葉に現れていますね.
Q.
なぜ自然数の定義に0を含めても含めなくてもよいのでしょうか?
キーワード:閉じている
Q.
「自然数は-1以上の整数」という人がいないのはなぜかを自由に論じなさい。(自明大学2019入試より抜粋)
— 結城浩 (@hyuki) 2019年2月19日
整数とひき算の世界
私たちは現在,自然数の世界までを知っています.
試しに,自然数の世界でひき算をしてみましょう.
(ex)
3-2=1
5-9=? etc.
Q.
A.
自然数とは限らない
自然数の世界のみで計算しているので,1(または0)より小さい数は存在しません.
このように,ひき算は自然数の世界だけでは成り立ちません.
この場合,自然数の集合はひき算について閉じていないといいます.
閉じていないとき,自然数の集合上でひき算は定義できないのです.
これは不便です.家計のやりくりもできません.
現代人は負の数の概念に対して抵抗を感じないかもしれませんが,「人間は考える葦である」で有名な大天才パスカルでさえ,負の数の概念は理解できませんでした.
そこで私たちは,自然数の集合をより使いやすい(ひき算ができる)数の集合に進化させようと考えます.
この「便利になりたいよう」という感覚が,数学の情緒というものです.
そして私たちは試行錯誤して整数の世界を発見します.
整数とは「0 とそれに 1 ずつ加えていって得られる自然数 (1, 2, 3, 4, …) および 1 ずつ引いていって得られる数 (−1, −2, −3, −4, …) の総称」のことです.
なので,整数の世界は自然数の世界を含んでいます.(自然数の集合 整数の集合)
整数の世界で,ひき算はできるのでしょうか?
Q.
(整数)-(整数)は整数でしょうか?
A.
常に整数
新しい数の世界である整数の世界では,ひき算ができるようになりました.
整数の集合はひき算について閉じている,つまり,整数の集合上でひき算は定義できるというわけです.
同様に整数の集合はたし算・かけ算についても閉じています.
つまり,整数の集合上でたし算・かけ算・ひき算は定義できます.
こうして私たちは,自然数よりも使い勝手の良い整数を手に入れることができました.
有理数とわり算の世界
私たちは,自然数の世界を含む,より大きな整数の世界を手に入れました.
今度はわり算です.
果たして,整数の世界でわり算はできる(整数の集合について閉じている)でしょうか
(ex)
6÷3=2
5÷3=? etc.
Q.
(整数)÷(整数)は整数でしょうか?
A.
整数とは限らない
整数の世界で計算しているので,分数は存在しません.
このように,わり算は整数の世界だけでは成り立ちません.
わり算は自然数の世界でも同様の理由で成り立ちません.
ここで再び登場するのが「もっと便利になりたいよう」という数学の情緒です.
そして試行錯誤して,私たちは有理数の世界を発見するわけです.
有理数とは,整数の比で表される数,つまり分数のことです.
なので,有理数の世界は整数の世界を含んでいます.(整数の集合 有理数の集合)
有理数の世界で,わり算はできるのでしょうか?
Q.
A.
常に有理数
より新しい数の世界である有理数の世界では,わり算ができるようになりました.
有理数の集合はわり算について閉じているというわけです.
同様に,有理数の集合はたし算・かけ算・ひき算についても閉じています.
つまり,有理数の集合上で四則演算は定義できるのです.
こうして私たちは,整数よりも使い勝手の良い有理数を手に入れることができました.
無理数,そして実数へ...
数の世界の冒険も,もうそろそろ終盤です.
学校では数の大小関係などについて学ぶとき,よく数直線が用いられます.
私たちは現在,有理数の世界までを知っています.
Q.
有理数のみで数直線上の数を取りつくすことができるか?
A.
できない
なんと,数直線上には無理数という,整数の比で表すことのできない数が存在します!
(ex)
ルート2=1.41421...
円周率π=3.14159...
自然対数の底e=2.71828...
etc.
学校では,背理法を使う練習として「ルート2が無理数であることの証明」がよく取り扱われていますね.
この無理数の集合と有理数の集合を合わせると,実数の集合になります.
有理数の集合を「完備化」して実数の集合にすると考えると現代的.)
有理数の集合が進化した実数の集合は,数直線上の数を取りつくすことができます.
このことを,数学の言葉では「実数の集合と数直線上の数は一対一対応している」と言います.
実数の集合が四則演算(たし算,ひき算,かけ算,わり算)について閉じていることは簡単に確かめられます.
Q.
有理数の集合上でも実数の集合上でも四則演算は定義できます.
この二つの集合は,どのような点で決定的に違うのでしょうか?
A.
第二回 ≦ と < の小さな違い・大きな違い をcheck!
長旅お疲れ様です.
数の世界の冒険はひとまずここでおしまい.
計算(演算)とは何か?
数の世界の旅を通じて,知ってもらいたかったことは,
ということです.
私たちが日々「アタリマエ」に使っている計算の根拠・計算できる理由が,この旅を通じて少しは実感できましたか?
(今回はわかりやすさ重視で「演算」から「集合」を見つけましたが,本来は「集合」から「演算」が定義されます.)
今回のような「アタリマエを掘り下げる」行為は,科学的な精神にほかなりません.
常日頃「アタリマエとは何か?」について考えながら生活をすると,まったく新しい世界が見えてくることでしょう.
広大な世界へ...
かけ算の順序問題
皆さんは「かけ算の順序問題」をご存じでしょうか?
Q.
リンゴが3個ずつ入った袋が全部で4袋あります.
リンゴは全部でいくつありますか?
A1. 3×4=12(個)
A2. 4×3=12(個)
A1.とA2.はどちらも同じ答えを導き出していて,両方正解に見えます.
かけ算の順序問題は,ある小学校の教員が(ans.2)の解答にバツをつけたことから勃発しました.
具体的な内容は以下の動画やリンクを参照してください.
(特に以下の動画は皆さんに見てほしいです!!)
とある東大生はかけ算に順序が必要だと考えます|Nao Harada|note
上記の通り,いろいろな意見があります.
一概にどちらが正しいとは言えませんが,私はこの問題について「考える意味がない」と考えます.
それらは定義の問題で,人によって意見が変わってくるのは明白です.
皆さんはどう考えますか?
まとめ
今回のキーポイント
- 四則演算の順序をcheck
- 演算が集合に関して閉じていることが重要
- 自分が「アタリマエ」だと思っていることを常に疑う → 科学的な精神
最後までご覧いただきありがとうございました.
次回の記事もお楽しみに!
オリジナル版はこちら↓
参考文献
wikipediaいろいろ
いらすとや-https://www.irasutoya.com/
数の起源-http://www7a.biglobe.ne.jp/~number/page1.html
ニコニコ大百科-https://dic.nicovideo.jp/a/6%C3%B72%281%2B2%29
高校数学の美しい物語-https://mathtrain.jp/
その他文中のリンク